ゴルフ練習場のアルバイト

個人営業のゴルフ練習場(打ちっぱなし)でのアルバイトを週に二回、かれこれ一年半ほど続けているのだが、僕はこのアルバイトがわりと好きである(あるいは自分に似合っている)ということがだんだん分かってきた。



火曜日と木曜日(たまに他の曜日に入ることもあるけど)の夜八時、自転車で二十分ほどかけてゴルフ練習場に行き、それから九時半に閉店するまでの一時間半、機械にゴルフボールを入れたり(機械は七台あるのだがうち四台は自動で球入れされるので三台だけでいい)、打ちっぱなしに使うマット(人工芝がついているやつ)の位置を整えたり、客の吸ったタバコの吸殻を回収してまわったり、自動販売機の横にあるゴミ箱(これがたしか六個くらいある)の中にある缶やペットボトルや瓶を分別したり、燃やせるゴミをまとめて焼却炉に入れたり(いまどき焼却炉なんてほんとに使っているのかと初め疑っていたが、次に行ったときにはちゃんとゴミが灰になっているところを見るに、ほんとに使っているのだろう)、機械の中にあるコインを集めてまわったり(コインの数でその日の売り上げが分かるのだ)、そして最後、戸締りをしたりする。それで仕事は終わりである。もしこの時点で雨が降っていれば、オーナーが軽トラックで自転車もろとも僕を家の近くまで運んでくれる。

一時間半、やるべきことがないときはぼーっと過ごして、二千五百円である(客がいないと早く店を閉めることもある)。時給にすると約千六百六十七円。勤務時間が短いからたくさんは稼げないけど、小遣い稼ぎとしてはこれ以上にないほど素晴らしいアルバイトである。



しかし、それだけではない。僕は単に「ラクだから」という理由でこのアルバイトを気に入っているわけではないのだ。

まず、コミュニケーションをほとんど必要としないこと。客に「いらっしゃいませ」を言う必要もなければ、仕事は一人で行うので他のバイト仲間と連携する必要もない(受付ではバイトの女の子が雇われているがまったく別の仕事をしている)。唯一のコミュニケーションはオーナーとのちょっとした会話(それからたまに顔見知りの客に挨拶をする程度)であり、まじめに働いているかぎりにおいてオーナーは優しい。(当然さぼると怒られる。ごくまれに不機嫌なときがあって理不尽な怒り方をしてくるときがあるが、そういうときは黙って心の中で反抗していれば怒るのをやめてくれる。大体において僕はまじめに働いているんだから……。)

次に、服装が自由であること。ジャージでもなんでもいいのだ。

最後に、向上心を必要としないこと。つまり僕はやるべきことだけやっていればよくて、しかもどれも誰がやってもほとんど変わらないような仕事ばかりなのである。仕事を覚えてしまえばあとはただの作業である。仕事に対してプライドを持つ必要はないし、責任もほとんどない。要するにこれはちゃんとした「アルバイト」なのである。僕は雇われている身だしお金が入ればいいのであって、オーナーもちゃんと言ったとおりに働いてくれればそれで満足なのであって、それ以上の何かを僕は求めないし求められないもしない。めんどうなことは何もない。さっぱりしているのだ。これは大事なことだ。



このアルバイトが合わないという人もたくさんいると思う。何よりもオーナーとうまくやっていけないと厳しい。それから一時間半のためだけにわざわざ移動するのは億劫だったりもする(僕の家からは近いけど大学からはわりと遠いのだ)。そして人間関係をアルバイトに求める人は(そういう人たちの気持ちもよく分かるのだが)この仕事が辛いと感じるだろう。そこまで清潔な場所というわけではないので(屈強な虫が登場することもある)きれい好きな人も向いていないだろう。