傷ついた心を持つ人は気持ちがすさんでしまって、「自分ではない誰かが傷つくのなんか構うものか、僕だってこんなに傷つけられたんだ」という考えを持つようになる。しかし一方でその人は、「傷つけられたことで僕はこんなに苦しい思いをしている、他の誰かにおなじような思いをさせることはできない!」という考えをも抱くようになる。

このまったく正反対のふたつの考えにはさまれ、押し潰されそうになる、まさにその点に、傷ついた心を持つ人の地獄があるのだ。自分の「欲望」を押し通すためなら他者を傷つけても構わないとする考えと、他者のそういう考えに傷つけられる苦しみをよく知っているからこそ抱く深い「良心」。欲望を押し通すとき、必ず良心の呵責がつきまとい、心が安らぐことはない。逃げ場がないのである。