人が他者に対して抱いてしまう、あらゆるマイナスの感情はすべて——怒り、憎しみ、軽蔑、優越感といったものはすべて——、初めからその感情であったのではなく、人間そのものに対する怯えの感情から、生じているものである。つまり、人間不信であることが原因となって、あらゆるマイナスの感情が生まれてしまうのである。人が他者を傷つけてしまうのは、その人の人間不信による結果であるし、人が他者に傷ついてしまうのもまた、その人の人間不信から生じる不幸なのである。人は「傷つきたくない」という怯えのために、人を傷つけてしまうのだ。

 戦争についてもまったく同じことが言える。人は「殺されたくない」という怯えのために、人を殺してしまうのだ。つまり、戦争の本質というものは、「パンが足りない」という点にあるのではおそらくなく、信仰の違いによるものでもやはりなく、まさに、人間どうしが互いに怯えあっている、という点にあるのである(ただし、ここで言う「パン」とはもちろん、食料一般のことを指している。人間が人間的であるよりもまず、人間は生物である、ということが理由で、必要となるもののことである)。

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