他人はいつも尊敬に値する

 他人を尊重しなくてはいけないし、また「いけない」というだけではなく 、他人はいつも尊敬に値するものである。それが分からない、実感できないというのは、それだけ未熟であるか、恵まれていないということである。世間一般の人びと(そういう人びとがいればの話だが)を見下し、他人となじめないことを自分の頭の良さだとか、恵まれた才能のせいにする人がたまにいる。そのような願望はとてもよく分かる。「自分」という存在を正当化するために、世間一般を見下してしまうわけである。しかしそういう人は、他人をはなから軽蔑しているという点で「世間一般の人びと」より劣ってさえいるかもしれないし、そうではないにしても「負い目」はあるのである。

 他人を軽蔑してしまうようなときには、そのような軽蔑が起こったまさにその瞬間から、考えを改めて反省をするよう、自分の心に言って聞かせる必要があるだろう。その他人がじっさいは人知れず苦しんでいるだとか、自分には想像もつかないほどの不幸を味わったことがあるかもしれないことに、気づいてしまってからではとても遅いのだ(どんな警察よりも良心の方がずっと恐ろしいのである)。そのような事実はつねに隠されているのかもしれない、いや、本当の苦悩というものはつねに他人には隠されているものなのだから。したがって、自分をのぞくすべての人間が、人知れず苦悩を抱え、不幸に黙って耐えている者なのである、とさえ想像してみなくてはならない。

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