ドストエフスキー『白痴』の第一編(新潮文庫で四百ページほど)を読み直した。人間関係に起こるあれこれの出来事を、こんなにもスリリングに描いている小説はほかにない! のっけからアクセル全開で面白く、読者に登場人物についてのさまざまな空想をさせたところで、彼ら全員が一堂に会して常軌を逸した大騒ぎをくり広げる、といった構成になっている。しかもその大騒ぎは、第一編が終わる最後の数ページまで、加速度的にぶっとんでいくのである。私たちはただでさえ興奮しながらそれを見守っているのだが、物語はその興奮の火にますます油を注ぐかのようである(思わず目を疑ってしまうくらいに!)。ドストエフスキーの小説は思想の面で難解だと言われるけれど、この小説に限ってはそれほどでもなく、それ以上にただただひたすら楽しいものである。

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