かすかな風景

なつかしいもの
わたしは好き
でもちょっとさみしいような
かなしいような気持ちになる
公園のわきを歩いているとき
たとえば小学生の男の子から
そのボールこっちに蹴って とか
頼まれたりしたらたぶんわたしは
あわててしまってどうにも声が
出せなくなって あ ああ うん
いますぐ蹴るからすこしまってて
って 心のなかで返事をしながら
失敗しないようすごくていねいに
ぎこちない動きでわたしは蹴る
するとすぐに男の子は
お礼を言って走って
わたしから離れていく
わたしは一人とり残されて
記憶のすみにもいさせてくれない
なんだか遠いという気持ちになる
忘れているなにかを思い出せない
という気持ちになる
みんないなくなってしまった
なんにもなくなってしまった
という気持ちになる
心にかすかな風景がうかんで
すぐにぼやけてきえてしまう

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