さっきね、一羽の鷹が入って来たのね、そしたらあたし、とたんにがっくりなってしまったの。「馬鹿ねえ、あたしの愛してるのはこの人じゃないか」——そのとたん、心がそうささやいたのよ。あんたが入って来て、たちまち何もかもはっきりさせてくれたの。「いったい、この人ったら何をこわがっているのかしら?」って思ったわ。だって、あんた、びくびくもので、それこそびくびくもので、ろくに口もきけなかったじゃない。この人のこわがってるのは、あの人たちじゃないって思ったわ。だって、あんたは人をこわがるような人じゃないもの。これはあたしがこわいんだなって思ったの、あたしだけがこわいんだって。
(ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』)

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