郷愁

朝早く目が覚めると窓から
霧のように白く明るい陽の光が
部屋の中を優しく包み込んで
あの愛すべき錯覚が
私の意識にすっと入り込んで
頭の中に一つの声を作り出している
何もかも素晴らしいじゃないか!
というあの躁状態へと
高み高みへと連れて行く
だってほんとうに
何もかも素晴らしいのに……

夢の中の懐かしい風景
遠い大地は原故郷
青々とした草原と
ふいにモノクロームの寒々と
後ろは赤々炎が燃えて
灰の煙はもうもうと
ゆっくり振り返る母と目が合う時
私はすでにそこにいない

出かけてくるねと妻が言う
遅くなるから夕飯は勝手に
うん分かったと私は言う
行ってらっしゃいと私は言う
妻はさびしく微笑んでいる

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