ソクラテスは人の語ることにいちいち疑問を呈し、前提から疑い、そのまた前提から疑い、そうやって議論を後退させるので、こんなにたくさんお話ししたのに、最初よりも一層分からなくなってしまったネ(袋小路)みたいなことになる。結局いつも何も分からないネ、で終わるので、ソクラテスには理論もイデオロギーもないし、それらしい思想もない。対話という方法があるだけである。結論まで持っていくプラトンとは大違いである。ソクラテスの不思議なところは、自分は何も知らないと言いながらも、虚無主義にはならないところ、価値なんてものはクソくらえ、という冷笑主義にならないところである。神さまに疑問を呈することはしない。理屈ぬきで、神さまを直接的に信じている。どういう思考の回路なのかよく分からんのだけど。

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