拝啓大統領殿

 ユーチューブで見つけた音源。ボリス・ヴィアンというフランス人作家の曲を、高石友也さんというフォーク歌手が翻訳し、それを小山田壮平さんがカバーしたもの。反戦歌であるということよりも、人間の健気さ、いじらしさ、哀れさにとても心を動かされます。これを聴いたあとには、せめて一瞬でも、ふりでしかなくても、道徳的に気をつけの姿勢になります。

 世界と一定の距離をとり、カッコつけて、のらりくらりと、物事を茶化したり、皮肉を言ったりする人たちが大勢いる(私自身もそういう人間になることがある)。もちろん、現実を和らげるため、人びとの緊張をほぐすための、そういったシニカルさは、たくさんの人を救ってもいる。だけど、本当の話、人生はゲームではないし、日々の生活は切実なものだし、人間の苦しみは大真面目なもの。喉もとにナイフを突きつけられるまで、それが分からないような冷笑家ども、言葉遊びが大好きなお喋り連中は、悪魔にでも誘拐されてしまえと思います。

 苦しみ、悲しみ、恐怖があって、私はそれを本当の意味では知らないけれど、いまもそれを経験している人たちが大勢いるし、それを経験しながら、死んだり、殺されたり、殺したりした人たちが大勢いる。人生は大真面目なものだから、陽気に笑ったり、浮かれ騒いだりしているまさにその瞬間にも、心のどこかに、人間の苦しみに対する真剣な黙祷がなければならない。

コメント