ドストエフスキーの『白痴』はもう三度目、話の筋も知っているので、さらさらと読み流していたのだが、十数ページに一度、鋭い洞察に富んだ文章にぶつかる。たとえば、以下のようなもの。「忘れずに言っておくが、人間の行動の原因というものは、ふつうわれわれがあとになって説明するよりもはるかに複雑なこみいったもので、それがはっきりしている場合はまれである」。自分の行為の原因についても、人類の歴史についても、まったく同じことが言える。『フラニーとズーイ』のズーイのセリフを引用すれば、「僕の頭の中でじっさい何が進行しているか、それは僕自身にも分からない」。

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