ラスコーリニコフがソーニャに向かって深いお辞儀をする場面、これに『罪と罰』の主題が尽くされているように思う。理性が、合理的思考が、人間なみでしかない知恵が、もっとリアリティのあるこの世的な人間の生に対して頭を下げる、という象徴的な場面。ジェーン・オースティン『高慢と偏見』のダーシーもそう。頭でっかちで、なんでも理性的にものの判断ができると思い込んでいる男が、心の深いところにある知恵で動いている他者と出会い、感情やら、心やらの現実に直面して、愕然とする(そして、少し人間的になる)物語。

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