戦争と赦しについての一考察

 戦争の根っこにあるのは「おびえ」の感情である。自分のおびえが相手への憎悪になり、その憎悪が相手をおびえさせ、相手のおびえが自分への憎悪になる。この負の連鎖が戦争である。負の連鎖を断ち切るためには、相手の憎悪に対して、愛と赦しをもって報いなければならない。それは言葉で言うほど生易しいものではない。ナイフで刺されながら抱擁するようなものである。

 赦せ、敵を愛せ、右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ、という命令は、各人が自分自身に対してのみ下すことのできる命令である。誰も(聖職者でさえも)赦す行為を他人に強いることはできない。他人に対して「相手を赦せ」と命じる資格のある者はこの世に一人もいない。誰も他人の苦しみを知らないからである。他人の苦しみを知ることは不可能だからである。赦すか否か、赦したいか否か、赦すことができるか否かは、当人の心の中で問答されるべき事柄である。

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