現象と存在、人間と神

 人間がそう思っているにすぎないこと(現象)と、実際そうであること(存在)との違いを理解するためには、「全知(=すべてをくまなく見ることができる)の神」という観念を導入するのが一番よい。人間の目に見えるものが現象と呼ばれるのに対して、神の目に見えるものは存在と呼ばれる。人間の前に現象することは、存在すること(=神の前にもまた現象すること)の証拠としては不十分である。見えるけれど存在しないもの(夢、幻覚など)があったり、同じものに対する見方が人によって異なったりするのは、現象と存在が必ずしも一致しないからである。神が見ているものだけが、真に存在するものであるが、神の目にどう映っているかは人間の誰にも分からない。理性を用いればそれが分かる、というのが啓蒙思想ならびに理神論の主張ではあったが。

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